「まんじゅう屋の女将でございます」から始まる約650年の振り返りはさすがに素晴らしい... - まんじゅう屋繁盛記 塩瀬の六五〇年
- 作者: 川島英子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/05/25
- メディア: 単行本
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「まんじゅう屋の女将でございます」からの「人生に悔いなし」
さて、この本は、「まんじゅう屋の女将でございます」から始まる、650年続く饅頭と和菓子の老舗の34代当主、川島英子さんが後を継いでから、自分のお店のルーツをたどりながら、そのときそのときで緩やかに変革していた老舗、塩瀬総本家の歴史を尋ね、温故知新を地でいき、最後に、それこそラオウのように「悔いなし」で締めるという、それだけで清々しい本です。塩瀬のお菓子を好きな貴方は読んで損することはありません。あそこのお菓子を好むだなんて、私も高貴なのかもみたいな気分に...そこまでは、なれませんけど、でも、お目が高いくらいは間違いないと思います。畜生発言ですみませんが。かわいすぎる上に4歳児なのにクラフトワークなどをやたら好むうちの子どもも、塩瀬さんとこのお菓子は結構好んでいるようです。教育を正しく間違えていないか、最近は大変心配になります。
ご満悦だった模様。かわいいしきれいだよねーとか言ってました。しかも、おいしいねーだって。殺す気か。スマイルアサシン幼女か。KOされるわ。
650年とか歴史とか簡単に言うけど改めて考えると積み重なってるものはとんでもないことで
大正創業とかたいして老舗でもないだろみたいなことを口の悪いうちの一族はよくぼやくのですが、650年とか言われるとぐうの音も出ません。江戸時代どころか室町時代ですからね...。
そして、この本に出てくる登場人物が自然にとんでもなくて、足利義政直筆とか、足利尊氏と足利直義の兄弟、松永久秀、明智光秀、徳川家康とか、普通に話の流れで出てくるわけです。挙句、明治天皇...とか...。こう高貴な方々も普通にお菓子やおまんじゅうが好きだとか、実に人間味があり良いことだと思われます。その歴史の傍らにずっといらっしゃったというのは、やはりとんでもないことだと思います。
歴史というものは大変素晴らしいもので、続く歴史もあれば、終わる歴史も、変わる歴史も
ナンバーガールの最後のMCみたいですみません。
さて、著者の川島さんが、激動の時期を経て、ちょうど一息つけたようなタイミングで歴史をひもといたということもあり、情報として整理されているところがあり、読む方はするする読めます。室町幕府とか出てきても、それでもするする行きます。
その中で私が興味深かったのは、変わらない歴史と、変わる歴史があって、その対比。
変わらない方はお菓子や製品に誇りをもって、絶対の品質を維持することは変わらないこと。それから時代時代で、よく中興の祖とかそこかしこに存在したりしますが、塩瀬の歴史にも節目には良い番頭さんだったり、腕っこきの鬼のような職人さんが居たりと、やはりいつの時代もある程度は人に宿る何かという現実はあるのだなと思われました。
一方で、商売の仕方やどこで何をするかについては、少しずつしなやかに変わってきたという側面を知らせてくれるところが本書にはあります。生き残ってる老舗というのは逆にこだわらないところがあって、変化しているわけですね、ちょうど新譜出るくるりもそうです。ナンバーガールもスーパーカーも解散してしまったけど、くるりは健在、すごいぞ、くるり。饅頭だって本当に創業当時の味とは全然ちがうものなわけで...というかこの辺りは私の想像の範疇を少し飛び越えていったのですけど、650年も前だと、だいたい砂糖が食用でおいそれと使えるような代物でもなかったとかなわけなんですね...。あとは商いのやりかたやチームのまわし方も老舗とはいえ昔のままではないというところについてもずばっと書いてるのは逆に好印象でした。
それから、塩瀬のルーツをたどると確かに歴史の上では650年ですが、当初は塩瀬という名前とはまだ縁も所縁もなく林氏とかだったわけですけど、それでも、読めば、ああこれは 650年の老舗だなとは思わされるわけで、そのあたりはこの本が良い構成に感じました。流れがあるというか。時の流れがまさに今から巻き戻して、歴史を振り返ってから再度現代に戻ってくる構成で、雄大というか連綿というか、その感じが本当に素晴らしいです。誠実な本だなと思います。塩瀬のお菓子もそういう味ですね、そういえば。
塩瀬帛紗の塩瀬もこの塩瀬
- 出版社/メーカー: 高砂 宇治園
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面白いのが人の善意のつながりや逆境をひっくりかえすお話
先日はアイスバケツチャレンジが話題になってましたけど、もう少しそれよりは素敵な姿で、人の善意のつながりの力で、塩瀬のご先祖の肖像画が見つかったり、歴史的に貴重なことについてのフィードバックがひょいっと返ってきたり、あるいは「ちょっとした、こうしてあげたいこと」が、国境を越えて中国のえらい人まで動かしてしまったりと、ポジティブな連鎖や逆境を跳ね返すのエピソードは和むところがあります。最近、日本のネットにおかれましてはネガティブな連鎖と炎上の飛び火が多いので、なおさら素晴らしいな...というエピソードが本当にひょいっと出てきてそれがインパクトになっているのが、これまたこの本の読みやすさに拍車を書けています。ちょうど和菓子の餡とか甘いだけじゃなくて、塩入ってないとおいしくないとか、そういう感じで、それ以外のいろいろなエピソードの効かせ方が匠な感あります。
その他
あとは、かつて塩瀬とともに御用達だった黒川さんというお店の絡んだエピソードが出てくるのですが、その黒川さん、どうやら虎屋の模様...。
- 作者: 黒川光博
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2005/08/01
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それ以外だと、塩瀬のお店、今は中央区の築地の北の方の明石町にあるのですが、そこに至る変遷なんかは東京の土地勘があると楽しく読めると思います。
まとめ
みんなおいしいもの食べたりつくったりして、長生きして悔いのない人生を過ごしましょう。
では、良い人生を。
- 出版社/メーカー: 塩瀬総本家
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