アンダーグラウンドを読み終わった...
- 作者: 村上春樹
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 1999/02/03
- メディア: 文庫
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この後で出た、神の子どもたちはみな踊るから遡って読みたくなったので、アンダーグラウンドを読んだのですが、著者の後書きによると、順序は逆だったけど悪くない順番だったみたい。それから、神の...から遡って読みたくなった私の感性も悪くはなかったみたいw
この頃は、著者は理不尽な暴力であるとか、海外から戻ってきての日本とかについて考えていたころらしいですね。
すれちがう人たちそれぞれに、それぞれの人生とか考える
あの、想像のななめ下をいきすぎていて、上から落っこちてきたような理不尽な事件だと思う。
それで、その後遺症に悩まされたり、いやな思い出が記録になって本に残るのにも関わらずインタビューに応えている時点で、やっぱりその人たちはよい人というかすごい人たちだ。
著者もなるべくインタビューに応じていただいた方々をなるべく好きになるようにインタビューすることを心がけていたとのことだけど、そもそも、そんな心がけがいらない程度にみな素晴らしい方だったということを述べていて、それが一番すごいことだと思った。
駅のホームや、エレベータや乗り合わせたり、コンビニやお店や、いろいろな場所で会ったり、すれちがったりする知らない人たちにも、もちろん、それぞれの人生があって、それは当たり前のことで、この国においては、素晴らしく幸運なことにだいたいきちんとしているひとが多いんだよね。ありがたいことです。
ネットとか、その他のきっかけでも、なんだかんだと時々は知らない人にあう機会もあるけれど、学校や勤め先の共通のバックグラウンドがなくても、意外と人見知りな私でもちょっとだけ親しく話せたりしてすごいことだと思ったりするんです*1。
世の中へんなひともいるけど、へんじゃない人がはるかにたくさん居ることを忘れないことが、この本のとても大きな教訓。間違いなく。それから、個人的には「人たち」や「集団」に大してどう自分を処するか、とか、「団塊」とか「ゆとり」とかのくくりでわかることもあるけれど、やっぱりみんなちがうんだよね。その違いとか、例示は理解の試金石とか大好きな言葉ですが、具体的なことや、そういうことを覚えておくことは重要だと考えるのです。
信州大からのファックスとか、小伝馬町の普通のひとたちが、彼らの判断で被害にあった方たちを病院に運んであげたりするとか、そういう力って素晴らしい。
今も私たちには希望があるはずです。それがこの本で大事なこと。
メディアと情報源
なるべく一次情報や原著にあたれるものなら当たることって、特別には教えてくれないけれどネットや情報リテラシーの重要なことだ。
わかりやすく伝えられることってよいことだけれど、都合のいいようにとか、編集マジックを駆使してとか、単純な二項対立ではなくて、事実を正しく伝えたり、知るための方法って、やっぱりなるべく直接あたることしかないのだろうと思う。もちろん悪意だけでやっているわけではなくて、実際テレ東関連のクルーの方が病院へ被害者の方を連れていく話もあるしね。
ただ、メディアについて考えなくちゃいけないのは、それを求めていたり、成立させたりしているのが普く薄めた私たち自身であること。
あのひろゆきさんはへんなもの買うと悪いものがはびこることになるので、それはいやだ、みたいな話をしていたのが、私の印象にとても強く残っているのだけれど、メディアについてもそれも同じ。けっきょく、わけのわからないニュースをはびこらせてるのは、私たちの一部なんだよね。一人暮らししてから、デフォルトでテレビがない暮らしをしていますが、そういうことです。正しい価値にお金や手間暇やその他もろもろをきちんと使いましょう。
わかりやすくとかおもしろくは重要なことだけれど、普通にしててそうなのか、そうしようとしてそうなってるの、これも同じくらい、大事なこと。
リアリティと軽率さと
例えば具合が悪くなったときのことなんて思い出したり、話したくもないんだけれど、このインタビューに応じた方々は、サリンの症状についてかなり正確に丁寧に語っていて、視界が暗くなったとか、頭痛とかそういう話題は私も覚えている。
その後、ひさしくオウムの事件については、メディアでも取り扱っていたのに、このインタビューに応じた方達が共通で話している、集中力がなくなったとか、疲れやすくなったとか、物覚えが悪くなったとか、被害者の方達の後日談について、全然知らなかった。神経系を攻撃するガスで攻撃されたことから考えれば、この手の症状って想像に難くないことなのにね。
当時学生で北海道に居たからとかは関係なくて、その後のそれぞれの人生のケアってもっとなされるべきで、もしみんながこの件について知っていれば、「トシのせいだ」みたいな軽率なことや、笑ってごまかしてるけど、一人になってどんよりする。。みたいな悲しいことって減らせる。絶対に。本人がネタにして笑ってしまえるならいいけど、それと、笑ってごまかすとかはだいぶ違う。
あれだけ報道があって、核心に迫っているようなことをしていたけど、予防もできなかったし、ケアもできなかったとかって、メディアや翻って私たちすべてにかかる問題なんだともう少し考える必要があるんだというのは、読んでいて強く感じたことです。
それから、あとがきで、結局この国の構造は、ノモンハン事件のころから変わっていないという憤りを、ねじまき鳥クロニクルの調べ物に関わったときの思い出から著者が述べているところがあるところも印象的でした。その立場が上になればなるほど、無能になって、現場のひとや居合わせた人たちの判断はとても優秀だったという件。
物理的にも心理的にも重たい本ですが、読むべき1冊だと考えるのではなく、感じています。
- 作者: 村上春樹
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*1:とくにネットで出会った人とかは、不思議とちょっと突き抜けてておもしろい人が多い。お前が言うなというか、俺が言うなだけどw