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「昔々あるところにおじいさんとおばあさん"は"いました。」 日本人の英語 - マーク・ピーターセン著

日本人の英語 (岩波新書)

日本人の英語 (岩波新書)

日本語が亡びるとき―英語の世紀の中ででいろいろと慌ただしい様子ですが、前から読みたかった日本人の英語を読みました。
日本語を読んで読んで読んで、書いて書いて書いた著者が「日本語なんか嫌いだ!」と日本語で叫ぶくらい、日本語と日本人のことを理解した上で、ココがヘンだよ日本人の英語を、具体例をたくさんあげながら紹介してくれたスゴ本。他のブロガーでも読んだひとは多いと思う。
例えば、このエントリのタイトルって意味はわかるけど、「おじいさんとおばあさん"が"いました。」がもちろん、正しいよね。そういうニュアンスの違い、特に日本人が話した英語がこういう英文で、そのうえで、実はこんな言い回しになってるよ。というポイントを実例豊富に教えてくれる一冊です。

大学の受験生の息抜きから、英語で論文を書く大学生/院生にとってもおすすめ。200ページ弱なので、すぐ読めるし、具体例も多いし、得るところが多いです。しかも、普通に面白くてためになる。ある意味理想的な教科書だと思います。

目次

  1. メイド・イン・ジャパン - はじめに
  2. 鶏を一羽たべてしまった - 不定冠詞
  3. あの人ってだれ? - 定冠詞
  4. 間違いの喜劇 - 単数と複数
  5. 思いやりがなさすぎる -純粋不可算名詞
  6. 文脈がすべて - 冠詞と複数
  7. 慣用の思し召し - さまざまな前置詞
  8. 意識の上での距離 - on と in
  9. 「かつら」と「かもじ」 - off と out
  10. 明治な大学 - 名詞 + of + 名詞
  11. もっと英語らしく - 動詞 + 副詞
  12. 点と線 - 完了形と進行形
  13. 泣き続ける彼女 - 未来系
  14. 去年受賞したノーベル賞 - 関係詞の二つの用法
  15. アダルトな表現をめざして - 先行詞と関係節
  16. 慎重とひねくれ - 受動態と能動態
  17. 知識から応用へ - 副詞
  18. したがってそれに応じる - 副詞と論理構造
  19. 「だから」と「だからさ」の間 - 接続詞
  20. 自然な流れを大切に - おわりに
  21. あとがき

月並みだけど、いちばん読んでよかったと思ったのは、"a" と "the" の用法の説明。 "a man" の例とかで、man に a をつけるという風に皆ならったと思うのだけど、これは強烈に変で、実は文章の順番通りに "a" のほうに意味があるとか、すごく参考になりました。*1 "the" についても然りで、"the"っていうときはもう決まってないとだめなのよとか、かゆいところに手が届く説明が満載で、本エントリのタイトルにも引用したけど、違和感を伝えるための日本語例が、また面白い。
やっぱり別の言語の主で、さらに日本語で本を書けるくらいの実力があるからこそ、例えば英語で "思いやりがなさすぎる" と言うにはどうすればいいかわかるわけなんだろうな、と*2。そして、ここらへんに英語がある程度できるひとのほうが、"日本語が亡びるとき"で衝撃を受けてる原因になってる気もするかな。

冒頭で、"大学の受験生の息抜きから、英語で論文を書く大学生/院生にとってもおすすめ。" などと書いたわけですが、終盤の "慎重とひねくれ" のあたりで、この本を読まないで、国際学会の論文を書くことになった人がいたら、全力で(ノ∀`) アチャー で、しかも、かつて自分が書いたような英文とほぼ一緒という、びっくりなデジャヴュに出会えるので、それもお楽しみに...orz 、と言えます。なるべく単純な英語で書いた方がいいとか、教官に言われた思い出がある方もいらっしゃると思いますが、それがどういうことで、しかも直って行くプロセスをマークったら書いてくれてるのよ。素敵なのよ。それも、良い子、悪い子、普通の子的に、的確に突っ込みながらなのがすごい。in particular, 日本人が陥りやすい罠とともにね。

英語で論文書く前に読むと本当に参考になる一冊だと思います。So だからさ、図書館で予約しても損はないと思いますよ。


ちなみに、続の方を先に読んでいて、こちらはもう少し英語圏の文化的背景にアプローチしていて、人によっては続の方が気に入るんじゃないかと思います。
Kansas のニュアンスは 岩手県に似ているとか、動詞イディオムとラテン語系の動詞の差異(Take Part in と Participate の印象の違いとか... ) こちらも、とても、面白かった。

続・日本人の英語 (岩波新書)

続・日本人の英語 (岩波新書)

追記:
ただの読み物としては "続" の方が、面白いですが、アチャーな酸っぱい過去(があるひとは...)をほじくり返して、たくましく生きて行くためには無印のほうがおすすめです。
私は、いくつかの英語のオライリー本(ラクダ本他), と、ヒレガス本, そして AppStore に出すぞーが最終目標で、そのまえにあんまりとんちんかんな文章を書かないための予防線として読んでみました。

*1: "a" がつくとインスタンス化する感じかねぇ。

*2:ここは読んでのお楽しみ。たしかに"なさすぎる"って何だろうねw